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どうにもここは少し寒いな 今夜は寝床を間違えたらしい 古傷がやけに痛み出す 俺は旅する白い野良猫 もともと真っ白なはずの 毛並みはひどく汚れちまってるし 寒さをしのぐ背中や腕の毛皮は ケンカばかりで傷だらけだ そうか、今夜は雨が降るんだな なるほど、道理で痛むと思ったぜ となると寝床を変えねばと ふらふらする足で 屋根のある場所を 探していた折りだった 檻の中の一匹のヤマネコに出遭った 俺もいいかげん疲れ果てていたし 今夜の寝床はここにして 旅の慰みに少し話でもすることにした なんだいヤマネコ君よ おまえ、ずいぶん大人しいじゃないか おまえさんは俺たち野良猫の中でも 気位が高いと思っていたぜ おまえ、俺の与太話を信じるか? それなら檻を開けてやるぜぇ だけど血統証は持ってないから 今後は種別は自分で証明しろよ 俺は檻の鍵をかじった まぁこれまで磨いてきた歯だ 開けられる自信はあった なんなら俺の旅についてくるかね? だが、 ヤマネコよ あとはおまえが 野生を証明してみせろ さぁ行くか |
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乳歯も生えそろわない少年が 河原で石をほうってた それはどこにでもある河で 石は丸みを帯びてないから 石を積み上げるのがどうしても嫌で 少年はセラミックの涙を流しながら 黒い玄武岩の石は硬くて 手のひらからはビロードの血が ここには物干し竿はないから 洗濯物がはためかない 涙を拭う やわらかいタオルもなく 血を拭う まっしろいガーゼもなく 賽の河原には辿り着かず 積み上げることを拒んで 黒い石を拾い続けている 何度も何度もほうるため 河原で石をほうってた 少年は 過ぎることを悔いない 少年は どこへともかえらない ('07.8.27) |
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春に迷い込んだ赤とんぼが
ゼンマイをキリキリとうたわせた ブリキのオモチャのその中の ブリキでできた心臓に あんまりとんぼが赤かったから ブリキはとんぼに恋をした オモチャであることを忘れてしまって 「自分も飛べる」とゼンマイを巻き 歯車が欠けないうちに つかまえておかなくちゃ 夕焼け色の赤とんぼ 秋に飛び立つはずだった うっかりさんのこと もうすぐ言葉を忘れてしまう ゼンマイは巻きすぎて切れてしまった 廃墟に不時着したままで 雨にブリキは朽ちてゆくだろう 言葉を忘れてしまう前に うたっておかなくちゃ 夕焼け色の赤とんぼ 秋に飛び立つはずだった うっかりさんのこと 春にひとりきりだった 赤とんぼのその名を 廃墟に生えた草の合間で ブリキはうたった |
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逃がしてしまうのは なんかヤだ TVはいつもくだらない 新聞記事はやるせない 何話しても寄る辺ない メール来ても返さない 胸痛むけど恋じゃない 頭痛むけど哲学しない 音楽聴いても躍らない 言葉が妙に生まれない 空見上げても星がない ないないづくしで根も葉もないわ ないないづくしは身も蓋もないわ こんなのを見て 「アタシも」なんて言う人は あたし好きにはなれないわ あした好きにもなれないわ あたしはそれでも探しているの 砂粒のなかに星屑を たぶん今日には見つからないけど 見つからなくてもそろそろ眠るの あしたもそうして探していくの |
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「one」「two」「three」
天井の照明がぐるぐる回る 凄まじい左フックをもらっちまった 絵に描いたようなカウンター ああ 立てそうもない このまま眠ってしまおうか 「four」「five」「six」 白人のレフェリーが歌い上げる セコンドは「立つな」と叫んでる 観衆は「立て」と合唱する おら やかましいわい 立つか立たんかはオレが決める 普通の酔っぱらいは バーのカウンターにヒジをのせて 美酒に酔う 優男なら1号2号の バッティングに脅えてるだろう オレはパンチドランカー ヤツのカウンターにヒザをついて 美技に酔う インファイターなら1発2発の バッティングはいつものことさ 「seven」「eight」「nine」 ええいちくしょう立ってやる 勝てないことはもう分かったが もう2・3発もらってやろう まわりがやたらやかましい レフェリーがお決まりのように指を振る 次に対戦したら勝つ それまでヤツの 芸術的なパンチに酔おう オレはパンチドランカー 至福の屈辱に酔いしれる |
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あの青くてウサギだか怪獣だかよく分からないマスコットがお気に入りの ごく普通の女の子だった バッグにもそのマスコットのキーホルダーを付けていた ねぇ先生 教えて 地球はホントにまあるいの? わたしはそうとは思えないの 地球のはしっこはガケになっているんだわ だってヒトはこんなに四角いんだもの ねぇ先生 教えて 地球はホントにまわってるの? わたしはそうとは思えないの 太陽が地球のまわりをまわっているんだわ だってヒトはこんなにわがままだもの どうして教えてくれないの? わたしに世界を教えてくれたのは まわりのみんなだったわ 四角い固形のこの世界 この地面はわたしが歩くには固すぎて この太陽はわたしの目を灼くんだわ ねぇ先生 もし違うのなら 教えてよ 彼女に見えるのは闇のように青いトンネルだけだった 出口の見えないトンネルはまるで怪獣の体内のようにうねっていた 彼女は立ちつくして 自分のつま先を見つめるのが精一杯だった |
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『フジツボ』
どこからきて どこへ行くのか その存在さえも危うくなる あまりに似たものが多すぎて 自分自身が分からなくなる まるでグラフィックの 1ドットでしかないように思えて 空を飛ぶカモメに 海に浮かぶ漁船に あこがれた 俺は俺一人でありたいよ 今はリヴァイアサンにのみこまれそうさ 俺はもっと大きくなりたいよ 宇宙の中じゃちっぽけでもね 生きることを忘れてしまわないために 生きることを忘れてしまわないために 『大きなフジツボ』 どこへ行って どこへ帰るのか 俺らの居場所はどこにもありはしない 今生きているのか あるいは死んでいるのか それさえも俺は知ることができない まるで黒い海にのみこまれてしまいそうになる 俺の身体はくだけ散り 波にさらわれていく 帰る場所のない野良犬のように 俺は岩の上にたたずむだけ 俺の存在する意味は この俺のこの心だけ 他には何もない けど他には何もいらないさ 理由を欲しがるほど 俺は小さくない 今ここに俺がいて 心があり 今ここに海があって 波がくる 帰る場所のない野良犬のように 俺は岩の上にたたずむだけ それでいいさ ('97.4.16) |
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彼女はいつも
赤いレインコートを着ていた 雨の降る日も また雨の降らない日も 鮮血色した鮮やかなレインコートを レインコートを着ている間は 彼女は明るい娘でいられる 誰かを励ますことも 誰かを楽しませることもできる そんな魔法のレインコートを もう脱いでしまってもいいんだよ 今は雨は降ってない たとえ冷たい雨が降っても 濡れてしまえばいいじゃないか きみのこころに雨が降っても 濡れてしまえばいいじゃないか それは魔法のレインコートなんかじゃない たしかに雨は防いでくれても 鉛のような囚人服だ もう脱いでしまえばいいんだよ |
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俺の仕事はバー・テンダー
いわゆる“優しい止まり木”だ 寂しがり屋の小鳥たちは 俺の枝にとまって 羽根を休めていくといい 君が再び飛び立てるまで ほんのひととき佇めばいい 俺はさりげに無関心で 疲れた羽根を風から守ろう 俺のこの身はバー・テンダー 動かぬ“優しい止まり木”だ 寒がり屋の小鳥たちは 俺の枝に隠れて 寒さをしのいでいくといい 君が再び旅立てるまで ほんのひと冬留まればいい 俺はそつない不干渉で 凍えた羽根を雪から守ろう ただ俺は ここから動くことはない 小鳥が空に羽根を広げて 飛び立つまでの 止まり木 だが俺は この身を悔やむことはない 小鳥が風に羽根をなびかせ 旅立つまでの 止まり木 小鳥よ 俺に苦しみなどない だから 振り返ってくれるなよ 真っ直ぐ空だけを視て ゆけ |
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