黄昏時のラクガキ
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Drops


  あめ玉は降るものであり
  あめ玉があるからには
  あめ玉は降らないだろう


地上に哀しみがあった。たぶん橋の上に橋が架けられたからだった。
たとえ虹の上に虹を架けても空は流出したりはしないが、十字架の上に十字架を架けたからといって丘の見晴らしが良くなるわけでもなかった。そんなわけで私は地下鉄の駅にいる。この巨大な地下鉄と私の肉体がトポロジーにおいて同じものとなると非常に困惑する事態だが、私の肉体とその身にまとっているパンツとシャツはそれぞれ異なるとなるとわずかに安堵を覚えるのはなぜか。2本の列車を見送る。仮に列車が発車した後の私が列車が到着する前の私とは異なるものだとしても、それは誰にも知覚されてはならなかったし、観測されてしまえば私はこの文章を書いている私ではなくなるということになるために、この私はまだこの文章を書いている私である。唐突に見知らぬ人から携帯端末にメールが来る着信音が鳴るのはいつも受信側にとっては唐突だ。ディスプレイは内蔵メモリの電話帳から一人分の固有名詞を選択して表示している。けれどそれを送った相手が今ここにいない時点でその発信者は私の旧知の人物ではないことはほぼ明らかな事実として明らかだろう。たとえ希望的観測をもって相互に時間や場所や体験の相似する記憶を持つ相手であるという前提をおいたとしても、旧知の人物と一致する確率は無きに等しいと思われるが全く無いわけではない。

件名「:Re」本文「わたしをかえしてください」

…どこへ帰す?あるいは、どこから返す?これまで私は誰かを連れ去ったことがあっただろうかまたは誰かそのものを奪ったことがあっただろうかそしてそのまま連行または保持しているのだろうか。ここに「:Re」とあるが、常日頃から私は件名をしたためる習慣がないために送信フォルダ内に該当する私の送信メールを特定することは適わない。しかしながら「わたしをかえしてください」には少なくとも私の行動とその対象が指定されているのでそれはそれで十分に十分だろう。「分かった善処しよう。今このメールを送ったきみが過去に私が知ることのあったきみであり、またこれから未来に私が取るであろう「きみをかえす」という行動の対象であるきみが今このメールを送ったきみであり続ける、という二点が満たされる場合、それは不可能ではないだろう。」と返信する。あえてメールには書かなかったが、私自身が過去に「わたし」を知ることのあった私であり、またメールを受け取った私がこれから「かえす」私であり続ける、という点も満たさなければならない。つまり前提として私と「わたし」は共に誰からも存在の変異を観測されてはならなかったのだし、これからも観測されてはならない。だがそれよりも差し当たって浮上している問題は、私は「わたし」を連行または保持している自覚が全くないという認識で認識を認識している認識。これらの認識が単に私の誤認であるならば私個人でも対処できる可能性は残されているが、ともすれば「わたし」が嘘をついているという事態となると、私個人ではどうにもしようがない。嘘は見破るものであり嘘があるからには嘘は見破られないからだ。あめ玉があめ玉であるならば空からあめ玉が降ってくることがないように、嘘が嘘であるならば嘘は見破ることができない。
…と、ここまで思考を巡らせたところで「かえす」はもう一つ別の字義も持ちうるということを見落としていたことに気付く。ここに至ってようやく、私が誤認を抱えるかまたは「わたしをかえしてください」が虚構を抱えるかの二者択一が回避可能になるとともに、先に私が前提として置いた私と「わたし」それぞれの自己同一性の維持がもとより不要となる上に、これから私の取る行動とその対象も明快になりとても明快だ。




  卵は孵るものであり
  卵があるからには
  卵は孵らないだろう


卵が卵であるならば卵は孵らない。ハンプティ・ダンプティは壁から落っこちて壁から落っこちるだけだ。卵が孵るためには卵は卵でなくならなければならない。卵は卵でなくなることによって孵り、そして孵ったものはすでに孵らないものとしてすなわち卵であることだろう。例えば「なぜ生まれてきたか」という問いに「生まれないために」と答えるようなもので、それは幾度でも繰り返し繰り返すことができる。私は、「わたし」を見知らぬ私が見知らぬものとして「わたし」を見知らぬままに見知らなければならない。私は地上に出る。
見知らぬきみを識るために。


これからきみをかえしにいく


空からはあめ玉が降っている






2010-03-15 Mon 19:43
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